アクセンチュアのスライドがMBBと根本的に違う理由
コンサルティングファームのスライドと聞くと、多くの人がMcKinsey・BCG・Bain(いわゆるMBB)のものを思い浮かべます。論理が美しく、チャートが緻密で、1枚で経営判断ができるレベルまで作り込まれた資料です。一方、アクセンチュアのスライドを初めて見た人は「なんだか違う」と感じます。チャートより図解が多く、余白が広く、矢印とアイコンでフェーズが横に並んでいる。この違いは偶然ではなく、両者の「資料の目的」が根本的に異なることに起因しています。
MBBの主戦場が「戦略策定」や「意思決定支援」であるのに対し、アクセンチュアの主戦場は「実装・変革フェーズ」です。戦略を決めた後に、どうやってシステムを入れ、組織を動かし、運用まで定着させるか。この「実行」のフェーズでは、美しい論理よりも「関係者全員で同じ絵を見て動く」共同作業ツールが必要になります。だからアクセンチュアのスライドは、読み物ではなくワークショップで使うことを前提にデザインされているのです。全体像はこちらの「コンサル流資料の作り方完全ガイド」も合わせてご覧ください。
| 観点 | MBB | アクセンチュア |
|---|---|---|
| 資料の目的 | 意思決定のための「論理の可視化」 | 実行を動かすための「共同作業ツール」 |
| 主役フェーズ | 戦略策定・課題特定 | 実装・変革(トランスフォーメーション) |
| 読み手の想定 | 経営層が1人で読み切る前提 | ワークショップで全員が見る前提 |
| 情報密度 | 1スライドに論拠を詰め込む | ホワイトスペースを残し、口頭で補う |
| レイアウト傾向 | 縦積みピラミッド型 | 水平進行のジャーニー/ロードマップ型 |
| ビジュアル | チャート・表中心 | アイコン・フェーズボックス・フロー中心 |
💡MBBが「考える人向け」、アクセンチュアが「動く人向け」と覚えると、資料の作り分けがしやすくなります。どちらが優れているかではなく、プロジェクトのフェーズによって使い分けるのが実務的です。
もう一つ押さえておきたいのは、アクセンチュアが2020年にブランドリニューアルを行い、ブランドカラーを鮮やかなパープル(#A100FF)とブラックに刷新したことです。ロゴの「>」記号もパープルで統一され、コーポレートアイデンティティが一気に現代的になりました。この変更は単なるデザインの話ではなく、「アクセンチュアは変化を生み出す会社である」というメッセージをスライド1枚のレベルまで落とし込んだ戦略です。社員が作るスライドのすべてが、このブランドの世界観を体現するようテンプレート化されています。
アクセンチュアの公式ブログでも、現役社員が「スライド作成で最も重要なのは、PowerPointを開く前の思考時間」と明言しています。5mm方眼紙にメッセージと表現するコンテンツを細かく下書きしてから、はじめてPowerPointを立ち上げる。この「手書きで構成を固める」習慣が、アクセンチュアのスライドに一貫性と伝わりやすさを与えている源流です。
ファシリテーション設計とは何か:「読む資料」から「使う資料」へ
アクセンチュアのスライドを語るうえで欠かせないキーワードが「ファシリテーション設計」です。これは「資料は1人で読むものではなく、会議室でみんなで見ながら議論するもの」という前提で作るスライドデザインの思想を指します。英語では "designed for facilitation, not self-guided reading" と表現されます。読み手が受動的に情報を受け取るのではなく、議論の場で能動的に資料を"使う"ことを意図した設計です。
この違いが、スライドの情報密度に直接影響します。自己完結型の読み物なら、すべての文脈と根拠を1枚に詰め込む必要があります。しかし、ワークショップで使う資料は、参加者の発言や議論で文脈が補われるため、資料側は「骨組みと問いかけ」だけで十分です。アクセンチュアの資料に余白が多いのは、そこに参加者の思考と発言が入り込むスペースを意図的に確保しているからです。
余白は「対話の余地」として設計する
MBBのスライドが隙間なく埋まっているのに対し、アクセンチュアは意図的に余白を残します。これは手抜きではなく、「ここは口頭で補足する」「参加者に書き込んでもらう」という前提でデザインされているからです。1スライドあたりの情報量をあえて7割に抑え、残り3割をワークショップの対話で埋める設計思想です。
箇条書きを最小化してアイコンに置き換える
「3つのポイント」を縦に箇条書きするのではなく、3つのアイコン+見出し+短い説明文の横並びレイアウトにします。読み手の視線が「行→行」の縦移動ではなく、「ブロック→ブロック」の横移動になるため、会議室のスクリーンで全員が同じ速度で理解できます。
「現在地」を常にスライド上に表示する
アクセンチュアの長尺資料では、各スライドの上部に「全体マップのどこを今話しているか」を示すインジケーターが必ず入ります。3時間のワークショップでも、参加者は迷子にならずに自分の現在地を把握できます。これは「読み物」ではなく「セッションのナビゲーション」として資料を設計している証拠です。
結論を先に出し、詳細は後から広げる
冒頭で「今日の結論」を1枚出し、そこから逆ツリー状に詳細を展開します。ファシリテーションの場では、参加者の集中力が続くのは最初の15分です。その間に結論を共有してしまい、残りの時間を「結論に対する質疑と具体化」に使う設計です。
💡自分の資料が「ファシリテーション向き」かを判断するシンプルな方法:その資料を参加者に配って、自分が部屋から出てみてください。それでも議論が進むならファシリテーション設計が機能している証拠です。
ファシリテーション設計の本質は、「資料が主役ではなく、参加者の議論が主役」という立ち位置の逆転にあります。スライドは議論のきっかけと土台であり、完成品ではありません。この思想を理解すると、なぜアクセンチュアのスライドにはあえて「空欄」や「問いかけ」が残されているのかが腑に落ちます。
ジャーニーマップ型レイアウトの作り方
アクセンチュアのスライドでもっとも象徴的なのが「ジャーニーマップ型レイアウト」です。プロジェクトのフェーズを横に並べ、矢印でつなぎ、各フェーズに「やること」と「成果物」を記載する。シンプルですが、これ一枚で「プロジェクトの全貌」と「各フェーズの具体性」を同時に伝えられるのが強みです。
この水平進行レイアウトは、英語圏では "Design Through Discovery" スライドとも呼ばれ、問題解決のメソドロジーを段階的に可視化するための標準フォーマットになっています。キックオフでプロジェクト全体像を説明するとき、ステータス報告で進捗を伝えるとき、最終報告で成果を振り返るとき、すべて同じジャーニーマップをアップデートしながら使えるため、クライアントとの共通言語になります。「プロジェクトキックオフ資料の作り方」も合わせて参考にしてください。
JOURNEY MAP サンプル
診断
成果物
現状分析レポート
設計
成果物
TO-BE モデル
実装
成果物
パイロット成果
定着
成果物
運用マニュアル
具体的な作り方は以下の4ステップです。この手順通りに作れば、はじめての人でもアクセンチュア風のジャーニーマップが作れます。
フェーズを3〜5個に分ける
プロジェクト全体を「診断→設計→実装→定着→運用」のように3〜5個のフェーズに分けます。6個以上になるとスライド1枚に収まらず、視線の移動距離も増えるため記憶に残りません。迷ったら「現状把握→課題整理→解決策→実装」の4フェーズが汎用的です。
各フェーズに「見出し+アイコン+成果物」をセット
各フェーズボックスには、フェーズ名(見出し)・象徴アイコン・期間・そのフェーズのアウトプット(成果物)を必ずセットで配置します。「Phase 2: 課題整理」だけでなく、「2週間・ヒアリング議事録・課題一覧」のように具体的なアウトプットまで書くのがアクセンチュア流です。
フェーズ間を矢印でつないで流れを可視化
左から右へ、矢印でフェーズを接続します。単なる直線ではなく、「→」の形にすることで「次へ進む動き」が視覚的に伝わります。矢印の色はアクセンチュアのパープル(#A100FF)で統一し、フェーズボックスと同じトーンにすることでブランドの一貫性を保ちます。
下段に「責任者」「意思決定ポイント」を追加
ジャーニーマップの下に、各フェーズの責任者(クライアント側/アクセンチュア側)と、意思決定が必要なポイントを小さく記載します。これにより、資料が「計画図」から「役割分担表」へと進化し、ワークショップの議論が一気に具体化します。
💡ジャーニーマップに迷ったら、まず「診断→設計→実装→定着」の4フェーズで始めましょう。ほとんどの変革プロジェクトに当てはまる普遍的な骨格です。
ロードマップ・ジャーニーマップをAIが自動で組み立てます
スラサクならプロジェクト概要を入力するだけで、フェーズ分割・成果物・責任者までを盛り込んだジャーニーマップ型スライドが自動生成されます。手描きの方眼紙からスタートする時間を短縮できます。
無料で試してみる →ホワイトスペースとアイコン活用の技術
アクセンチュアのスライドを見比べると、他のコンサルファームに比べて「ホワイトスペース(余白)が広い」ことに気づきます。1枚あたりの情報量を意図的に絞り、読み手の視線が迷わないようにしているのです。これはミニマリズムではなく、「認知負荷のコントロール」という認知科学的な設計です。
人間の短期記憶が一度に処理できる情報は7±2個と言われますが、ワークショップで話しながら処理する場合、この数はさらに減ります。アクセンチュアは経験的に「1スライドに出す要素は3〜5個まで」という上限を設け、それ以上の要素は次のスライドに送るか、Appendixに回します。
ホワイトスペース設計の3原則
- 01
周囲マージンは画面の10%以上確保
スライド全体に対して、上下左右に10%以上の余白を空けます。プロジェクターやZoom画面で縮小表示されても、情報が潰れません。
- 02
要素間に「意味のある余白」を入れる
関連する要素は近く、関連しない要素は遠くに配置します。この「近接の法則」で、読み手はグループ構造を無意識に把握できます。
- 03
下3分の1は「意図的に空ける」
アクセンチュアのスライドは、下3分の1にフッター情報(ページ番号・章タイトル)以外をほぼ入れません。会議室の後ろの席からでも上半分が見える設計です。
次にアイコンの活用です。アクセンチュアのスライドでは、箇条書きの「・」の代わりにアイコンが配置されているのが特徴的です。「業務プロセス」には歯車、「人材」には人型、「データ」には円グラフのような、各要素に固定のアイコンがあり、資料全体で一貫して使われます。アイコンは文字よりも3倍速く認識されると言われ、ワークショップで素早く全体像を把握するために最適です。
ただし、アイコンの使いすぎは逆効果です。1スライドに5個以上のアイコンが並ぶと、どれが重要かわからなくなります。アクセンチュアの暗黙ルールは「1スライドあたりアイコン3〜5個まで」「アイコンは単色(ブランドカラーのパープル)で統一」の2つです。カラフルなアイコンセットを使うと、プロフェッショナルな印象が失われます。
💡アイコン選びに迷ったら、LucideやHeroiconsのようなアウトライン系の無料アイコンセットから1種類だけを選び、プロジェクト全体で統一します。塗りつぶし系と線画系を混ぜると一気にチープになります。
アクションプラン・ロードマップの見せ方
アクセンチュアが「実装・変革」に強いコンサルティングファームであることは前述しましたが、その象徴がアクションプラン・ロードマップの作り込みです。MBBの提案書が「何を解決するか」にページを割くのに対し、アクセンチュアの提案書は「いつ、誰が、何を、どうやって」実施するかに最大の比重を置きます。
ロードマップはジャーニーマップの発展形です。時間軸(横軸)にマイルストーンを置き、ワークストリーム(縦軸)に並行作業を配置するのが基本形です。よくある失敗は「時間軸が細かすぎて1年分が収まらない」「ワークストリームが多すぎて色が足りない」の2つ。以下の4つのコツで、見やすく実践的なロードマップが作れます。
タイムラインは月・四半期単位で切る
週単位で細かく切ると1年ロードマップが収まりません。月単位または四半期単位でブロックを作り、各ブロックに「何を完了させるか」を1行で書くのがアクセンチュア流の定石です。12ヶ月のロードマップなら、4つの四半期ブロック+各ブロックに3つのマイルストーンが目安です。
マイルストーンをアイコンで示す
「キックオフ」「要件定義完了」「本番リリース」などの重要イベントは、ロードマップ上にアイコン(星・旗・チェックマーク等)でプロットします。文字情報よりもアイコンの方が視覚的に認識が早く、ワークショップで「ここが勝負ポイント」と指さしやすくなります。
並行するワークストリームを色分け
複数チームが同時並行で動くプロジェクトでは、ワークストリームごとに色帯を引きます。「業務改革」は紫、「システム導入」はグレー、「チェンジマネジメント」はライトパープル、のように色の濃淡で階層を表現すると、並行する作業の関係性が一目でわかります。
「依存関係」を点線で示す
あるワークストリームが別のワークストリームの完了を待つ関係にある場合、点線の矢印で依存関係を示します。実線は「時系列の流れ」、点線は「依存・参照」という使い分けをすると、複雑な変革プロジェクトでも構造が崩れません。
もう一つ重要なのは「アクション単位の粒度」です。「要件定義」「設計」のような大きすぎる括りではなく、「業務部門へのヒアリング(5部門、各2回)」「As-Is業務フロー作成(18本)」のような具体的な成果物と数量まで書き込みます。この具体性が、クライアントに「このコンサルは本当にやり切れる」という信頼感を生みます。「コンサル流フレームワークをスライドに落とし込む方法」も参考になります。
💡アクセンチュアのロードマップの特徴は「クライアントが翌日から動ける具体度」です。抽象的な計画図ではなく、翌週のタスクリストまで落とし込まれている点が、MBBのスライドとの最大の差別化ポイントになっています。
ブランド一貫性を保つための3つのルール
アクセンチュアのスライドが一目で「アクセンチュアのもの」とわかるのは、ブランド一貫性が徹底されているからです。全世界の社員が作るスライドが、同じテンプレート・同じカラー・同じアイコンセットで統一されている。この一貫性は、個人の裁量ではなく全社ルールで担保されています。自社資料でも、以下の3つのルールを守るだけでブランドの印象が大きく変わります。
カラーパレットは3色に絞る
アクセンチュアは2020年のリブランド以降、パープル(#A100FF)+ブラック+ホワイトの3色を基本としています。自社の資料でも「メインカラー1色+アクセントカラー1色+背景(白)」の3色に絞ると、ブランドの一貫性が生まれます。4色以上使うとスライドが散らかり、プロフェッショナルさが失われます。
ロゴ・アイコン・フォントを全スライドで統一
アクセンチュアのスライドは、ロゴ上部の「>」記号がパープルで統一されており、どのページを見てもブランドが認識できます。自社資料でも、コーポレートロゴ・アイコンセット・フォント(和文:メイリオ or ヒラギノ、欧文:Arial or Graphik)を統一テンプレートで固定化すると、資料全体の品質が底上げされます。
タイトル位置・フッター位置を全ページで固定
「タイトルは左上から40px」「フッターは下から30pxにページ番号」のように、すべてのスライドで座標を揃えます。これだけで、ページ送りしたときに画面のちらつきがなくなり、ワークショップの参加者が疲れにくくなります。アクセンチュアが「ブランドテンプレート」を全社共有しているのは、この一貫性を担保するためです。
ブランド一貫性は、地味ですが効果が絶大です。同じ内容の資料でも、ブランドが揃っているだけで「プロが作った」と認識されます。逆にどれだけ論理が緻密でも、フォントがバラバラ・色が5色以上・ロゴの位置が毎ページ違うと、素人臭さが消えません。アクセンチュアが全社でテンプレートを統一しているのは、この認知的印象を徹底的にコントロールするためです。
なお、パープル(#A100FF)を自社資料にそのまま使うと「アクセンチュアっぽい」と思われてしまうため、自社のブランドカラーに置き換えてから適用してください。大切なのは「色の選択」ではなく「3色に絞る」「全ページで統一する」というルール自体です。
まとめ:アクセンチュア流チェックリスト
アクセンチュアのスライドがMBBと違うのは、デザインの好みではなく「実装フェーズの共同作業ツール」として設計されているからです。ファシリテーション設計・ジャーニーマップ型レイアウト・ホワイトスペース活用・アクションプラン具体化・ブランド一貫性。この5つが揃うと、読むのではなく「使える」資料になります。
次の提案書やプロジェクト資料を作るとき、以下のチェックリストをスライド完成前に見直してみてください。10項目のうち7つ以上クリアしていれば、アクセンチュア流の「使える資料」に近づいています。
アクセンチュア流 スライドチェックリスト
- ✓1スライドに1メッセージが書かれているか(複数入っていないか)
- ✓タイトルが「結論」になっているか(単なるカテゴリ名ではないか)
- ✓余白が3割以上確保されているか
- ✓箇条書きがアイコン+短文に置き換えられているか
- ✓フェーズは3〜5個に収まっているか
- ✓各フェーズに「成果物」が書かれているか
- ✓ロードマップに責任者と意思決定ポイントが明記されているか
- ✓カラーが3色以内に収まっているか
- ✓フォント・ロゴ・アイコンが全ページで統一されているか
- ✓スライド上部に「現在地インジケーター」があるか
資料作成は才能ではなく技術です。アクセンチュアの若手社員が入社半年で「アクセンチュアっぽいスライド」を作れるようになるのは、センスではなくルールとテンプレートの運用を徹底しているからです。まずは1枚、今日の会議の資料からジャーニーマップ型レイアウトを試してみてください。1枚でも作れば、次からは型が自分のものになります。
ファシリテーション設計を、次の提案書に取り入れる
スラサクなら、ジャーニーマップ・ロードマップ・アクションプランを
AIエージェントが自動で構成。アクセンチュア流の"使える資料"が数分で完成します。
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