マッキンゼーやBCGの資料は「戦略と示唆」で光ります。一方デロイトの資料は、戦略が決まった「その後」で光ります。実装・変革・定着——このフェーズで「誰が・いつまでに・何をやるのか」を経営層と現場の両方に伝える技術こそ、デロイトがBIG4最大規模で積み上げてきた資料作成の核心です。本記事では、プロセスフロー図解・実装ロードマップ・経営層向け報告・確言的表現という4つの柱で、デロイト流の資料作法を解きほぐしていきます。コンサル資料全般の基礎はコンサル流資料の作り方完全ガイドも併せてご覧ください。
デロイトのスライドが「実行フェーズ」に特化している理由
デロイト トーマツ コンサルティングは、世界最大規模のプロフェッショナルファーム「Deloitte Touche Tohmatsu Limited」の日本法人群に属しています。BIG4(デロイト・PwC・EY・KPMG)の中でも最大手であり、監査・税務・FAS・コンサルティング・リスクアドバイザリーを横断する総合ファームという立ち位置が、資料の性格を決定づけます。ブランドカラーはブラック(#0F0B0B)とライムグリーンのDeloitte Green(#86BC24)。落ち着いたダーク基調に鮮やかなグリーンのアクセントを効かせる配色は、真面目さと前進感を同時に伝える意図が込められています。
デロイトの資料を読み解くと、戦略示唆に集中するMBB系ファームとはまったく違う「密度」を感じます。スライド1枚あたりの情報量は多く、プロセス・責任者・期限・成果物といった実行情報が積層されています。なぜそうなるのか、その理由を3つの観点から整理します。
BIG4最大規模の「総合コンサル」というポジション
デロイト トーマツ グループはコンサルティング、FAS、監査、税務、リスクアドバイザリーを横断する総合ファームです。戦略を描いて終わりではなく、システム導入・組織再編・業務改革・M&A後の統合(PMI)まで、企業変革の最終フェーズを伴走します。結果として、資料の主戦場が「戦略提案」ではなく「実行設計」になります。
戦略コンサルが去った後に残る「誰が・いつ・何を」
経営層が最終的に知りたいのは「で、誰が・いつまでに・何をやるのか」です。MBBが得意とする戦略示唆の資料では、この実行レベルの情報が意図的に抽象化されています。デロイトの資料は、戦略を受けて「翌月曜からの動き」まで落とし込みます。この違いが、プロセス図・ロードマップ・責任者マトリクスの密度に現れます。
Deloitte Greenhouseが象徴する「共創」型の仕事観
デロイトは世界で3,000セッション以上を実施した「Deloitte Greenhouse」という独自のラボ型ファシリテーション施設を持ち、クライアントと共同で意思決定を加速させるアプローチを体系化しています。資料も「コンサルが提出するもの」ではなく「クライアントと一緒に作り上げるもの」として設計される傾向があり、当事者性を引き出すプロセス可視化が重視されます。
💡ポイント: デロイトの資料は「提案書」ではなく「実行設計書」として書くと、既存の資料と一線を画します。戦略の正しさを主張するのではなく、実行可能性を証明するのがゴールです。
プロセスフロー図解の設計技術
デロイトの資料で最も特徴的なのがプロセスフロー図です。業務の流れ、プロジェクトの進行、意思決定の連鎖——これらを図解に落とし込む技術は、BIG4の中でもデロイトが特に洗練しています。以下の5ステップで、誰でも「読めるフロー図」を設計できます。
Step 1: フローの「単位」を決める
プロセスフロー図で最初にやるべきは箱を並べることではなく、何を1ステップとするかの粒度設計です。プロジェクト全体なら「Phase」、業務フローなら「Activity」、システム処理なら「Function」。粒度が揃っていないフロー図は必ず破綻します。
Step 2: 時間軸か論理軸のどちらかに固定する
フロー図は左から右に「時間」が流れる時系列型と、上から下に「論理」が流れる構造型の2種類に大別されます。1枚に両方を混在させると読者は迷子になります。デロイトの資料では、タイトル横に「時系列(Time)」または「構造(Logical)」のラベルを置き、視線の流れを宣言するパターンが多用されます。
Step 3: スイムレーンで責任範囲を可視化する
実行フェーズの資料では「誰がやるのか」が常に問われます。横方向に時系列、縦方向に担当者(経営層・プロジェクトオーナー・現場・ベンダー・デロイトチーム)のレーンを切り、箱をそのレーンに配置します。これだけで「このステップは誰のアクションが必要か」が一目で伝わります。
Step 4: 矢印の種類を3種類に統一する
矢印を増やすほどフローは読みにくくなります。デロイト流では「順次(実線の太矢印)」「並列(実線の細矢印)」「条件分岐(点線)」の3種類だけを使い、意味を図中に凡例で明示します。矢印の種類が5個を超えたら設計が間違っているサインです。
Step 5: マイルストーンを菱形で強調する
経営層が知りたいのは「いつ判断ポイントが来るか」です。通常のステップは角丸長方形、判断が必要なマイルストーンは菱形やライムグリーンのアクセントで強調します。フロー全体から菱形だけ拾い読みすればプロジェクト全体の意思決定スケジュールがわかる設計にします。
フロー図のもう1つの重要な原則は「1枚に収める」ことです。複雑だからといって2ページに分けると、読者はページをまたいで流れを追えません。情報が多すぎる場合は、粒度を1段上げた「サマリーフロー」と、各ブロックの「詳細フロー」を別スライドに分割するのがデロイト流です。サマリーフローで全体像を把握させ、関心のある読者だけが詳細に降りていく二層構造です。
色使いにも一貫したルールがあります。完了ステップはDeloitte Greenで塗りつぶし、進行中は同色の枠線のみ、未着手はグレーの枠線のみ。3状態を3段階の視覚強度で表すことで、フロー上の現在地が一瞬で伝わります。ステータスを表す色を増やしすぎると「赤い箱が問題なのか、強調なのか」が読者にわからなくなるため、意味の割り当ては徹底的に絞り込みます。
💡ポイント: 箱の中に書く文字は「動詞+目的語」で統一します。「要件定義」ではなく「要件を定義する」、「承認」ではなく「役員会で承認を得る」。名詞だけのフロー図は解釈の余地が生まれ、実行段階で齟齬が出ます。
経営層向け報告資料の作り方
経営層——取締役・執行役員・部門長クラス——に向けた報告資料には、独自のルールが存在します。彼らは情報を読むのではなく「判断する」ために資料を開きます。読者が「判断する人」であることを前提にした設計が、デロイト流の経営層向け報告です。進捗報告の基本はプロジェクト進捗報告資料の作り方で詳しく解説しています。
オンスライド1枚で「全体像・進捗・リスク・次の一手」を示す
経営層は1枚しか読みません。上部にワークストリーム別の進捗バー、右上にリスクサマリー(赤/黄/緑のRAG表示)、下部に「次の4週間で必要な意思決定」を箇条書きで配置します。この「1枚ダッシュボード型」はデロイトの進捗報告で非常によく使われます。
Decision Required(意思決定要求)を明示する
経営層向け報告では「共有します」ではなく「ご判断ください」を明示的に書きます。スライド右上に「本日ご判断いただきたい事項: ①予算の追加承認 ②要員2名の追加投入」と赤字で記載します。判断事項が明確な資料は、会議の生産性を劇的に上げます。
リスクは「起こる確率×影響度」で定量化する
「〜かもしれない」では経営層は動けません。デロイト流では、各リスクに確率(高/中/低)と影響度(円単位または工数単位)を付け、緊急度でソートします。「最大のリスクは要員離脱(確率:中、影響:遅延3週間=800万円)」と書けば、対策投資の判断が可能になります。
もう1つ重要なのが、資料の冒頭に置く「エグゼクティブサマリー」の書き方です。MBBのエグゼクティブサマリーが「戦略的示唆」を書くのに対し、デロイト流は「本日の結論・進捗・課題・次のアクション」を箇条書きで並べます。戦略の正しさを論じるのではなく、実行状況を可視化することに重心があります。
会議の時間配分も資料から逆算します。経営層の会議時間は30分〜60分が一般的で、そのうち資料説明に使えるのは前半20分程度です。残り時間は議論と意思決定に充てるため、資料は「読み上げる」ものではなく「指し示す」ものとして設計します。1ページ1分で読める密度、全体で15〜20ページが経営層向け報告の黄金比です。
💡ポイント: 経営層が「判断できない」と言ったら、それはあなたの資料が情報不足なのではなく「判断軸」を示せていないことが原因です。選択肢A・B・Cの比較表と、各選択肢の評価基準(投資額・期間・リスク・効果)を必ず併記します。
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無料で試してみる →確言的表現の使い方:断定することで信頼を得る
デロイトの資料を読んだことがある人なら、キーメッセージの語尾がほぼ「~します」「~となります」「~を実現します」で統一されていることに気づくでしょう。これは偶然ではなく、実行フェーズの資料における意図的な選択です。
「~すべきかもしれません」「~と考えられます」といった留保表現は、戦略の検討段階では誠実さの表れですが、実行フェーズでは「この人は本当にやる気があるのか」という疑念を生みます。経営層は、自分が投資した数億円のプロジェクトを率いる責任者に「~かもしれません」と言われたくありません。断定することで責任を引き受けるという意思表示が、確言的表現の本質です。
| Before(留保表現) | After(確言表現) | 理由 |
|---|---|---|
| ~すべきだと考えられます | ~を実行します | 主語と行為を明示し、責任の所在を示す |
| ~の可能性があります | ~となります | 調査・分析に基づく確信を伝える |
| ~が望ましいかもしれません | ~を推奨します | 推奨は専門家としての見解を明確にする |
| ~を検討する必要があります | ~に着手します | 実行フェーズでは検討ではなく行動を語る |
| ~という見方もあります | ~と結論づけます | 中立ではなくプロとしての結論を出す |
ただし確言的表現にはリスクもあります。根拠が不十分なまま断定すると、後で撤回できなくなります。そのためデロイト流では、確言する前段に必ず「〜の分析結果より」「〜の事実に基づき」という根拠節を置きます。根拠があるから確言できる、という因果を資料の流れで示すのです。
💡ポイント: 確言的表現を使うタイミングは、データ・分析・ベンチマークで裏付けが取れたときだけです。不確実な部分は「推奨(〜を推奨します)」という語尾で切り分け、決定と推奨を混同しないようにします。
デロイト流実装ロードマップの見せ方
実装ロードマップは、デロイト流資料の「代表作」と言える構成要素です。MBBがロードマップを簡素に描くのに対し、デロイトは意図的に密度を高めます。その理由は、ロードマップこそが「戦略を実行に繋ぐ翻訳装置」だからです。戦略ロードマップの詳細は戦略ロードマップ資料の作り方も参考になります。
Phase構成(通常4〜6フェーズ)
「①現状把握 → ②To-Be設計 → ③PoC → ④本番展開 → ⑤定着化」のように、実行順序を明確にします。Phase数は4〜6が黄金比。3以下は粗すぎ、7以上は読めません。
各Phaseの期間・開始日・終了日
「6月〜8月」のような幅ではなく「6月1日〜8月31日(13週間)」と記載します。期間が明示されていないロードマップは単なる願望リストです。
マイルストーン(意思決定ポイント)
Phase間に「Go / No-Go判定会議」を設け、予算・要員・スコープの見直し判断をどこで行うかを菱形アイコンで示します。経営層は菱形だけ見ていれば進捗を追えます。
ワークストリームの並列表示
大規模案件は「業務改革」「システム導入」「人材育成」「組織変更」などのワークストリームが並行して走ります。各ワークストリームを横バーで積層し、依存関係を点線で結びます。
成果物(Deliverables)の明示
各Phaseの終わりに「何が手元に残るのか」を書きます。「要件定義書」「To-Beプロセス定義書」「導入効果試算」など。成果物を起点にスコープを確定させる思考法です。
担当者とRACIの割当
誰がResponsible(実行)、Accountable(責任)、Consulted(相談)、Informed(報告先)かを明示します。大規模プロジェクトでRACIが曖昧なまま走ると、必ず責任の空白地帯が発生します。
ロードマップを描く際の最大の落とし穴は「理想的すぎるスケジュール」です。Phase 3のPoCが順調に進むことを前提に、Phase 4の本番展開を直後に置く——このようなロードマップは、実行段階で必ず破綻します。デロイト流では、Phase間に「バッファ期間(通常2〜4週間)」を明示的に挟みます。遅延は確率論的に必ず発生するという前提で、それでも全体スケジュールがブレない設計にするのです。
ロードマップの視覚表現は、横軸に時間(月単位)、縦軸にワークストリーム(3〜5本)を置く「ガントチャート型」が標準です。各ワークストリームのバーはDeloitte Greenで塗り、マイルストーンは菱形アイコンで重ねます。依存関係は点線矢印で結び、「Phase 2のアウトプットがPhase 3のインプットになる」という情報の流れを可視化します。Deloitte Greenhouseの共創セッションでは、このロードマップをクライアントと一緒にホワイトボード上で描き上げ、そのまま清書して正式資料に格上げする運用がよく取られます。当事者が自分の手で描いたロードマップは、実行意志の土台になります。
💡ポイント: ロードマップには必ず「Phase 0」を用意します。正式スタート前の準備・キックオフ・体制構築の期間です。ここを省略すると、実際のキックオフ後に「準備が追いついていない」状態が発生します。
BIG4共通のスライドスタンダード vs MBBとの違い
BIG4(デロイト・PwC・EY・KPMG)はいずれも、1スライド1メッセージ・アクションタイトル・ピラミッド原則といった「コンサル共通のスタンダード」を守ります。これらは外資コンサルのパワポが伝わる理由でも解説しているように、コンサル業界の基礎作法です。一方でMBB(マッキンゼー・BCG・ベイン)とBIG4は、資料の「焦点」で決定的に違います。
| 観点 | MBB | BIG4(デロイト等) |
|---|---|---|
| 得意フェーズ | 戦略立案・示唆出し | 実行・変革・実装 |
| スライドの主役 | 数字と示唆(So what) | プロセスとフロー(How) |
| 典型的な図解 | 2x2マトリクス・ウォーターフォール | スイムレーン・ガントチャート・RACI表 |
| 語尾のトーン | 示唆型(〜と示唆される) | 確言型(〜を実行します) |
| スライド密度 | 低密度(1枚1メッセージを厳守) | 中〜高密度(情報量を許容) |
| プロジェクト期間 | 3〜6ヶ月(戦略中心) | 6ヶ月〜3年(変革中心) |
| 資料の最終読者 | CEO・役員 | 役員〜現場マネージャーまで幅広い |
業界では「MBBはプレゼン制作の一部をオフショア化し、コンサル本人は示唆出しに集中する」という慣行が知られています。対照的に、BIG4のコンサルは資料を自分で最後まで仕上げることが多く、この違いが資料の粒度と密度に表れます。どちらが優れているという話ではなく、クライアントが何を求めるフェーズにいるかで、使うべきスタイルが変わります。
実務的な示唆としては、戦略立案フェーズではMBB流(示唆と示唆タイトル)、実行フェーズではBIG4・デロイト流(プロセスと実行計画)を使い分けるのが正解です。戦略フェーズでロードマップを細かく描きすぎると意思決定が遅れ、実行フェーズで示唆ばかり並べても現場は動けません。
💡ポイント: 自分のプロジェクトが「戦略フェーズ」か「実行フェーズ」かを最初に定義します。戦略=「何をすべきか」の検討、実行=「どうやるか」の設計。フェーズ判定を間違えると、資料のスタイルも大外しします。
まとめ:デロイト流チェックリスト
デロイト流の資料作成は、戦略を実行に翻訳する技術です。プロセスフロー図で「どう動くか」を示し、実装ロードマップで「いつ・誰が・何を」を明示し、確言的表現で「やる」という意思を伝える。経営層を動かし、現場を巻き込み、変革を前進させるための、実践的な設計術です。以下のチェックリストで、次に作る資料を一度セルフレビューしてください。
デロイト流チェックリスト(8項目)
- ✓スライドタイトルに確言的表現(〜します / 〜を実現します)を使っている
- ✓プロセスフロー図に時系列軸か論理軸のどちらかを明示している
- ✓スイムレーンで「誰がやるのか」を可視化している
- ✓矢印の種類を3種類以内に抑えている
- ✓マイルストーン(判断ポイント)を菱形・グリーンで強調している
- ✓ロードマップに期間・成果物・担当者(RACI)が揃っている
- ✓経営層向け報告に「Decision Required」を明示している
- ✓リスクを「確率×影響度」で定量化している
すべての項目を一度に満たす必要はありません。まず3項目、次に5項目、最終的に8項目すべてを満たせる状態を目指してください。デロイトのコンサルタントも、新卒1年目からこのレベルを書けていたわけではなく、先輩のレビューとフィードバックを通じて、1年かけて身につけていきます。
経営層を動かす実行計画書を、今日から設計する
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